障害のあるペットちゃんの「生きる力」、そしてお別れ……
障害があったり、体が不自由だったり、人間と同じように動物にも個性があります。
ハンデを抱えていても元気に生きる姿は、健気であり、たくましくもあり、勇気づけられる方は多いでしょう。
私の経験上、障害のあるペットちゃんの「生きる力」は特別に強いように感じます。そして最後は、多くの人に見守られながら穏やかに旅立っていくのです。
今回は、障害を持つペットちゃんのエピソードを2つほどお話しします。
脚のないワンちゃん
ある老人ホームの館長さんから聞いたお話です。
その老人ホームでは、ワンちゃんを2匹飼っているそうです。どちらも保護施設から引き取ったのですが、2匹とも障害を抱えていました。
1匹は、右の後ろ脚の麻痺。病気が原因なのか先天性なのかわかりませんが、右の後ろ足が機能しておらず、いつも引きずるように歩くそうです。
もう1匹は、左の前脚が丸く固まっています。こちらは事故による骨折のようでした。
症状はだいぶ前から現れたのか、老人ホームに迎え入れたときには、治療でどうにかできるような状態ではなかったそうです。しかし2匹ともとても人懐こく、職員にも入居者さんにも尻尾を振りながら寄って行ったとか。
フレンドリーなワンちゃんたちを見て、館長さんは「きっと、もともと人間のペットとして飼われていたのだろう。しかし障害が理由で捨てられたのだ」と感じたそうです。
真相はわかりませんが、館長さんたちの心配をよそに、ワンちゃんたちは人間との触れ合いを心から楽しんでいました。そして2匹とも仲が良く、一緒にじゃれ合ったり飛び跳ねたりなど、障害を持っていることなんてお互いにちっとも気にしていないようです。
ワンちゃんたちが“家族”になってから、入居者さんたちにも変化が出てきました。
車椅子生活に疲れて塞ぎ込みがちだった方は「あの子たちの様子を見ていたら自分もがんばらなきゃと思えた」と少しずつ元気を取り戻し、病気の後遺症に苦しむ方は「つらくてリハビリをやめていたけれどまた再開したい」と前向きな言葉を口にするようになったそうです。
“アニマルセラピー”の認知度が少しずつ向上してきた昨今ですが、彼ら2匹のワンちゃんは特別な訓練を受けたわけではありません。
ただ、思うままに生きているだけ。障害を抱えていても「どうせ」と塞ぎ込むのではなく、「脚がないから何?」とばかりに命を満喫しています。
そのような姿は、私たちの胸にまっすぐに響いてきます。まるで連鎖反応のようにポジティブの波紋が広がり、私たちの価値観や人生まで変えてしまうから驚きです。
自由で、健気で、愛おしい。
障害を持つペットちゃんたちは、全身全霊で「生きる力」を私たちに教えてくれるのです。
脚のない猫ちゃん
障害を持つペットちゃんと暮らすお客様も少なくありません。
あるお客様から伺ったのは、後ろ脚が1つない猫ちゃんのエピソードです。
マイホームの建築中、どこからか猫ちゃんが現れ、ご家族の元に近寄ってきたそうです。よく見てみると、その猫ちゃんの後ろ脚が1本ありません。しかし障害を持っていることなど気にしないのか、それとも脚がないことに慣れているのか、上手にひょこひょこ歩くのだとか。
ご家族は今までペットを飼育した経験がなかったため、なでたりあやしたりして、その場を後にしました。
別の日にまた現場に行くと、同じ猫ちゃんが同じように近寄ってきます。何か伝えたいことがあるのでしょうか……甘えるように、そしてどこか寂しそうに、ご家族を見上げながら鳴いています。
ちょうど、ご家族は仕事のトラブルや人間関係などで疲れ果てている時期でした。脚がなくても懸命に生きる猫ちゃんを見ていると、なんだか生きる気力が湧いてくるようで、誰からともなく「連れて帰って一緒に暮らそうよ」と言い出したそうです。
そして、猫ちゃんは家族の一員に。
活発で野良猫のボス的存在として君臨する反面、ご家族にはべったり。食事のときもテレビのときも寝るときもいつでも一緒で、まるで昔からの親友のように片時も離れようとしませんでした。
そんな性格が裏目に出て、ある日不幸な出来事が起こってしまいます。
ご家族を追いかけて道に飛び出した猫ちゃんが、車に轢かれてしまったのです。
ご家族の懸命の看病もあり一命をとりとめましたが、もう一つの後ろ脚も失うことに……。
ご家族は激しく後悔し、苦しみました。
しかし猫ちゃんは前脚2本を器用に動かしながら、歩いたりジャンプしたり、毎日イキイキ過ごしています。その姿はまるで「脚が2本なくても気にしないよ。個性だと受け入れて、できることをやればいいんだよ」と言っているようで、ご家族様は精神的にかなり救われたそうです。
“脚が2本ない猫ちゃん”は、ご近所の間でも有名になりました。
新居に越してきたばかりで知り合いがいなかったご家族は、猫ちゃんの存在を通してご近所と仲を深められたことに感謝していました。
猫ちゃんが旅立ったのは、それから数年後の話。
ご家族様はもちろん、ご近所さん、ご友人など多くの方が駆けつけて、たくさんの愛情に包まれながらその生涯を終えました。
精神的につらい時期に支えになってくれた猫ちゃん。ご近所とのあたたかなつながりをくれた猫ちゃん。逆境に負けない力強さを見せてくれた猫ちゃん……。
「あの子は、私たちにたくさんのことを教えてくれました。そして、たくさんのものを残してくれました。あの子がつないでくれたすべてを、私たちは大切に抱えて生きていきます」
お見送りのとき、ご家族様が涙ながらにおっしゃった言葉です。ご近所の方々も、口々に「ありがとう」と声をかけていました。
体は無くなっても、きっといつでも天国から皆のことを見守ってくれているでしょう。
障害のあるペットちゃんの「生きる力」とは
障害のあるペットちゃんは、自分の状態を本能的に理解しています。
だからこそ、自分を大切にしてくれるご家族のことが大好き。そしてその「大好き」という気持ちを糧に、障害に負けない強い生命力を身につけるのでしょう。
「こんな自分だけど、いつも一緒にいてくれてありがとう」
障害のあるペットちゃんは、毎日そのように思っているのかもしれません。
あるいは、
「大好きな人たちと一緒にいられるなら、どんなハンデがあったってどうでもいいんだ!」なんてポジティブシンキングなペットちゃんもいるかも。
障害があってもなくても、ご家族への信頼は変わりません。
ペットちゃんが目を閉じるその瞬間まで、どうぞたくさんの愛で包んであげてください。
まとめ
障害を持つペットちゃんと暮らす方は少なくありません。
健気に生きる姿を見ていると、自然と元気が出てきますよね。
障害を持つペットちゃんが教えてくれる、たくさんのこと。それは、五体満足の子では体験できなかったものかもしれません。
障害があっても体が不自由でも、すべて個性のうち。
ペットちゃんが「生まれてきて良かった!」と思ってくれたら、ご家族様にとってこれほど幸せなことはないでしょう。
たくさんのペットちゃんやご家族と関わってきた私は、動物の生命力について驚かされることばかりです。
障害を持つペットちゃんの「生きる力」。そしてたくさんの愛情に包まれたお別れ。
どうか一瞬一瞬を大切に。そして、「どんなあなたでも大好きだよ」と、ありのままを受け入れてあげてください